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東京地方裁判所 昭和35年(レ)630号 判決

控訴人 町田貞男 外一名

被控訴人 川野国隆

主文

原判決を取消す。

本件を大森簡易裁判所に差戻す。

事実

控訴人等は主文同旨の判決を求め、その理由として(1) 原審において控訴人町田貞男の被控訴人に対する本訴請求につき裁判官の更迭があつたにかかわらず弁論更新の手続がなされなかつた、(2) 原審において昭和三三年三月二九日なされた検証の調書は、当初楠は旧塀の「内」にあつたと記載されその状態において裁判官の署名があつたのにかかわらず、その後書記官はこれを「外」と訂正し捺印したが、その後裁判官の再検閲があつたかどうか明かでない。又昭和三二年六月五日の検証調書は、実施後二年を経た昭和三四年三月七日未だ作成されず、その後作成され菊池誠裁判官が署名しているが、その当時同裁判官は既に転任しており、又填補の辞令をうけていなかつた。従つてこの検証調書は無効であるが、これにつきこれを排除する決定がなされていない。以上のごとく原審の検証調書は不正なものであるのに、これを補正することなく、その不正な調書に基いて原判決がなされている。よつて主文同旨の判決を求める旨述べたほか、当事者の事実上の主張及び証拠の提出、援用、認否は原判決記載のとおりであるので、これを引用する。

理由

本件記録によれば、控訴人町田貞男の被控訴人に対する工作物収去土地明渡請求事件(原審昭和三〇年(ハ)第四五号)は、昭和三〇年五月一二日の第一回口頭弁論期日以来、裁判官菊池誠がこれを担当して審理して来たところ、昭和三三年一月二八日の口頭弁論期日以後、同裁判官に代つて裁判官須田武治がこれを担当し、その後昭和三四年二月一七日被控訴人が控訴人町田貞男に対し反訴(原審昭和三四年(ハ)第七九号)を、又昭和三五年九月二〇日控訴人町田八重が控訴人町田貞男及び被控訴人に対し当事者参加の申立(原審昭和三五年(ハ)第五〇六号)を、それぞれ提起し、同裁判官は、これらを、前記昭和三〇年(ハ)第四五号事件とともに審理し、昭和三五年一一月二五日の口頭弁論期日に於て、以上三事件に関する、原判決を言渡したことが認められる。

訴訟の進行中に、担当裁判官の更迭があつた場合、新しく事件を担当した裁判官は、弁論を更新する手続を経なければ、従前の口頭弁論に表われた一切の訴訟資料を、その判断の対象とすることができない筋合である。そして弁論が更新せられたか否かは、民事訴訟法第一四七条により、調書に依つてのみ証明すべき事項である。しかるに、昭和三三年一月二八日の口頭弁論期日に於て、菊池誠から須田武治に、裁判官の更迭があつたにかかわらず、同日以後の各口頭弁論調書に裁判官須田武治が、昭和三〇年(ハ)第四五号の工作物収去土地明渡の訴訟事件につき、弁論更新の手続をした旨の記載はない。従つて裁判官須田武治は右事件につき、弁論更新の手続をすることなく、即ち、その一切の訴訟資料を、判断に供することなく、原判決を言渡したものと認める外はない。その瑕疵は重大であつて、これに対する当事者の責問権の放棄は許されないと解すべきであるから、右訴訟事件に関する判決は、民事訴訟法第三八七条によりこれを取消し、かつ、同法第三八九条により、更に弁論を為さしめる為、原審裁判所に、これを差戻すのが、相当である。

前記反訴及び当事者参加の請求は、右裁判官の更迭があつた後即ち、裁判官須田武治が右事件を担当した後に提起されたものであるから、その二訴訟事件について、同裁判官が弁論の更新をすることなく、審判したことには、なんら瑕疵がないけれども、本訴と当事者参加の申立とは、民事訴訟法第七一条第六二条により、共同訴訟人の全員につき、合一にのみ確定すべきものであるから、当事者参加の請求を右本訴事件から分離して審判することは許されない(若しこれを分離すれば、両者について、原審裁判所と控訴審たる当裁判所とが相互に矛盾する判決を下す可能性がある)。そうすると、当事者参加の請求に関する判決も、これを取消し、原審裁判所に差戻すのが相当である。更に、当裁判所としては、反訴のみについて、控訴審として審判することは、相当ではなく、本訴及び当事者参加の請求と、合一にのみ確定せしめることを、相当と認めるので、反訴に関する判決をも取消し、これを原審裁判所に差戻すべきものと、判断する。よつて同法第三八七条により原判決全部を取消し、同法第三八九条により、本件全部を原審大森簡易裁判所に差戻することとし、主文のとおり、判決する。

(裁判官 鉅鹿義明 大塚正夫 近藤和義)

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